【第五夜】 瓦礫の帝国

こんな夢をみた。国境の長い橋をわたって帝国についた。
後にした北の王国は、夏というのに寒々とした景色が広がっていた。もういい。すべて忘れよう、すべてを脳裏から追い払ってしまえばいいのだ。

帝国の担ぎ屋たちが、荷物とともに次の王国行きのバスを待っている。赤白青のプラステイック・バッグがいやに懐かしく感ぜられる。

ニンニクの混ざる吐息が充満するその人ごみを、ようやっと抜け出ると、背の高い同胞らしき男が、こっちを見て微笑んでいる。

その男は自転車を片手で支えながら、こちらへ手を挙げて、「やあ」といった。


「向こうはどうだった?」


「これから向こうへ行くのかい?その自転車で?」


「そうだよ、自転車の目線であちこち見て回るつもりだ。」


いうべき言葉がなかった。ただ無事を祈ってわかれた。

しばらく行くと、城のようなものが見えてきた。テーマ・パークでもあるのか?一種のショッピング・センターのようなものであろうか?

身の回りの品でも補充しようと入ってみる。

しかし、どうも勝手が違うようだ。その中は病院か学校のようで、人気がなく閑散としている。

どうも勘違いしたようだ、これじゃあ仕方がない、出よう。しかし、入ってきた戸口をさがしたが見つからない。

あちこちめぐってみたが、いよいよ迷うばかりである。人に尋ねようとしたが、人影もない。いや人影らしきものもあるのだが、みな向こう向きに遠ざかるものばかりである。

さんざ迷ったあげく、裏庭とおぼしき場所にでた。


夏の午後の日差しがはげしくゴミ芥に降り注いでいる。向こうに低い塀でさえぎられた外界がみえる。ちかよって外を眺める。

そこは爆撃の後のように瓦礫があるばかりである。それでも多少の整理はされているらしく人のとおれる道はあるようだ。

そこから塀をのりこえて出ようとしたとき、背後から声をかけられた。

そこには、夏というのに厚い防寒コートに防寒帽をかぶった兵士のような男がたっている。

なにか帝国の言葉とはちがう言葉を口ごもるようにしゃべりながら、鉄砲をとりだした。


「ちょっと待ってくれ、わたしは迷い込んでしまったが怪しいものではない。」と叫んだ。


夏のつよい日差しの逆光で、まるで判然としない男の表情がすこしゆがんだように見えた。はたして笑っているのだろうか?

陽はまだ高い、わたしは日が暮れて涼しくなった宿でゆっくり背中を伸ばしたいものだ、と脈絡もないことを考えるばかりだった。


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